にわか遍路
順打ち逆打ち、十人十色の苦楽を背負い遍路は行く。軒先に「札所ご案内」を掲げて二十数年、道案内を努める。
「ありがとうございました」とこうべをたれるお遍路。「お気を付けて」と返す。短い言葉に、偽りのない真が宿り笑顔がのこる。これも一期一会であろう。
いつか節目に遍路を打ちたい、と思いつつ未だに果たせない。年が明ければ古希も間近かい。この節目を逃してはと気負う。身近に最御埼寺《ほつみさきじ》・津照寺《しんしょうじ》・金剛頂寺《こんごうちょうじ》の三名刹が鎮座する。ものはためしと三山参りに気が馳せる。
弘法大師空海の聖地、御蔵洞を起点とした。洞窟には二社の神さまが祀られている。空海は神との共存をもって、苦行のうえ二十四歳の若さで三教指帰《さんごうしいき》を著した。
岬の冬の草花はなぜか黄花が多く、人々の気持ちを温かく和ませる。畦唐菜《あぜとうな》・潮菊《しおぎく》・堆金草《たいきんそう》・石蕗《つわぶき》・薬師草《やくしそう》・なかでもインド北部より中国を原産地とする。中国名「迎春柳《げいしゅんりゅう》」和名「黄花亜麻《きばなあま》」はひときわ鮮やか。お寺への渡来経路は謎に包まれ、ロマンをかもす。
この花は俳人・浜田波川を魅了した。「最御埼寺の黄花亜麻まことに黄」と吟じさせ、花の気高さを讃えた。
道草に溺れ、にわか遍路は叶わずじまい。
(儿)
高知新聞「閑人調」掲載
高知新聞「閑人調」掲載
降る雪や明治は遠くなりにけり(中村草田男)。本日多摩地方はみぞれまじりです。野根から室戸岬までの海岸線は、お遍路さんにとって厳しい道のりだったと思います。無縁堂の片隅に、行き倒れた人を弔う塚があったような気がします。昭和とはどんな時代ぞ花遍路(早坂暁)。なつかしい時代が遠くになっていくようです。
返信削除早坂暁氏の句が間違っていました。「昭和とはどんな眺めぞ花へんろ」。失礼しました。室戸岬を上って、眺めた太平洋は格別です。
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