2014年5月1日木曜日

室戸市の民話伝説 第49話 奈良師の三兄弟

  第49話  奈良師の三兄弟

 これも、とんと昔の噺よ。
 奈良師の里に、おとどい《兄弟》三人が土方《どかた》をしながら暮らしよった。
 ある雨の日、一番下の弟が「こう長雨が続いたら、仕事も出来ん。わしらぶらぶら遊びよるわけにゃいかんが、どうじゃろ。高知へ働きに出てみんか!高知は築城で景気がえい言うじゃいか!」というと、二人の兄も「そりゃええ」と同調して、御城下へ出た。
 先ずは、町の様子を見ようと歩いておると、大きな家があって、立て札がたっちゅう。
 立て札には「この家は、代々長者の家である。ところが、どうしたことか、次々と、家の者が行方不明になる。今、十八の娘が、ひとり残っているだけである。この家の不思議を解いた者には、家督を譲り、娘の婿にする。なお、詳しいことは、これより西へ三丁行った丸目という家へ来て聞かれたし」と、こうある。これを見た三人は「こりゃえいことがある。これへ一つ行ってみろか」と、その家へ行って話を聞いた。家の人は「謎を解いたら、約束通りのことをしてやろう。けんど、命が惜しかったら止めちょいたらえい。何しろ今まで、侍・浪人、武芸者やら、なんぼ行ったかしれんが、行ってもんたもんがない。お前らの若さで気の毒な、止めたらどうな」と、仕切りに止めたが、三人は「いや、今までは一人じゃった。けんどわしらは三人で行く。三人でやれんことはない」「そうか。そればぁ言うなら止めん。刀を貸しちゃるきに、持っていかんせ」三人は刀を借りて、その謎の家へ行った。そして大広間へ入って、四方山《よもやま》話《ばなし》なんぞしながら、夜が更けるのを待ちよった。

           絵 山本 清衣

 ところが、今で言うと夜中の十二時すぎのこと、床板がドロドロと鳴り始めた。耳を澄ましよると、ピカッと光って、一番上の兄の姿が見えんようになった。
 「こりゃ、どうしたことじゃ」と、夜が明けるまで探してみたが、どうしてもわからん。かというて、いぬることも出来んし、「今晩、もう一晩、来てみろう」という事になった。
 その晩も、同じ時刻にピカッと光って、こんどは二番目の兄がおらんようになった。
 そこで弟は、失敗の原因をよう考えた。
「ドロドロがきた。それから光る間の時間が、こればぁある。よし、その時じゃ」
 弟は、腹を決めて、もう一晩泊まることにした。ほいたら、例によってドロドロときたから、刀を抜いて、そこら当たり盲めっぽう振り回した。すると、何者かが大きな音を立てて倒れた。
 さて、一方、長者の家では「三晩目じゃが、もう気の毒に、生きちゃすまいのう」こう思いながら来てみると、弟が一人座りよる。たまげて当たりを見回すと、血が一杯散っちょる。
 さっそく庄屋さんに告げると、ホラ貝を吹いて、村の衆を集めた。
 そうして、その家の床の下を見ると、大きな穴があいちょった。この穴、どればぁ深いじゃろうか!と、穴に重しを降ろしてみた。ほいたら、七十五尋(一尋は1.50cm)もあった。「この下に、何ぞ居るじゃろか」「居るにかあらん。お前いてみい」「くわばら・・・くわばら・・・」
 みんなが尻込みをしよるうちに、弟が「儂《わし》が行く」と言いだして、モッコを作った。
大きな綱を付けたモッコに乗って、穴の底に下りていくと、そこには立派な住まいがあった。住まいに入っていくと、娘が居る。「大将はおるかのう!」と聞くと「夜前、外へ出て大怪我をして、休んじょります」と、いう。そこで、奥の間へ飛び込んで行って、襖《ふすま》を開けると大きな蜘蛛が八畳の間、一杯になって寝よった。「おのれ化け物覚悟しろ!」
 弟は、持っちょった刀でぶすっと刺《さ》すと、腹の中から、前に捕らえられた二人の兄が飛び出してきた。「三人は無事を喜びあった。 ところで、あの娘は蜘蛛の!・・・」と話していると、そこへ娘が出てきて「私は、ここの長者の娘で、捕らえられて来た者じゃ」と、言った。それを聞いた兄弟は、娘を真っ先にモッコに入れ上にあげた。次に一番上の兄、次の兄と上がった、が。一番下の弟が底から半分ばぁ上がってきた所で、先に上がった二人のおとどいが相談をした。「したの弟が上がってきたら、自分らの貰うモンが少のうなる。いっそ殺すか」「よし、やろう・・・」と、言うことになって、綱を切ってしもうた。たまるか、弟は真っ逆さまに下へうどみこんだ。
 弟は、七日七夜も落ちた。ドスンと叩き付けられたことで気が付き、当たりを見回すと青々とした野原じゃった。
 川がひとすじ綺麗な水をたたえて流れよる。「こりゃ、どこじゃろう。まてよ、親父はこう言いよったぞ。道の分からんくへいたら、兎に角川の流れにそうて下がれ言うて聞いた。
 弟が流れにそうて行きよったら、八十歳ばぁの、杖をついた総髪のお爺さんが、こっち向けてやってくる。そうして弟を見ると、驚いたように「お前、人間か」と問う。「わたしゃ、人間でございます」「どうしてここへ来た」実は、こうこうしかじかと一部始終を話し「ときにお爺さん、なんぞ食べるもんはないじゃろか」「食べもんか。そうようのう、ここから三丁ばぁ下へさがったら棚がある。その棚に籠が三つおいちゃある。一つは食べてもええが、二つは食べてはならんぞ」
「分かりました。おおきに、どうも」
 弟が言われた所へいてみると、なるほど籠がある。食べると旨い。腹が減っちょるき、じきに、籠の中の物をたいらげてしもうた。
 「ええっ、くそ。死んでもかまうか」
 そこにあった籠の中の物を、全部喰うてしもうた。所がたまるか、下から大蛇が角《つの》を振り立てて襲い掛かってきた。
 「こりゃ食われたらたまらん」と、刀を抜いて戦ったが、とうとう大蛇に巻かれた。けんど、刀の持ちようがよかったきん、大蛇はズタズタに切れてしもうた。そこへ、さっきのお爺さんがノコノコやって来て「おお、ようやってくれたのう。その大蛇にゃ随分と苦しめられよった。所でお前は家へ帰りたいか」と、聞くので「うん」と、頷《うなず》くと「よし、それなら帰してやろう。まず、大蛇の皮を剝げ。それから葛《かずら》を採ってきて、この中へ入れ」お爺さんは、弟を大蛇の皮に入れ、葛で縫うた。「さぁ、目をつむっておれ」こう言うて、川の中へポンと放りこんだ。
 ポコポコ、川を下る。何日下ったかーー。
 さて、話が変わって、一番上と二番目のおとどいは、弟を殺してちょうど一週間になる。墓参りでもしょうか言うて海辺へやって来た。所が、波打ちぎわに、何やら光るもんがある。おとどいが光る袋の葛紐《かずらひも》をとくと、中から弟が飛び出してきた。
 「こりゃたまらん、弟ぞ、さあ逃げえ!」と、上二人は飛び逃げて、何処へやらおらんようになってしもうた。
 そこで、弟が長者の家の養子となって、家督を継ぎ、裕福な暮らしをした、と言う。
 
                        文  津 室  儿
         

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