絵 山本 清衣
第二話 使い初め
こんな話があった。昔は元旦の朝、正月替えと言って、食器や下着、草履から下駄に至るまで新品に替えた。この風習は、昭和二、三十年頃まであった。
これを”使い初《ぞ》め”と、言い、それだけに子供らは正月が待ちどうしく、楽しみであった。
昔の室戸の漁師は、なにせ鯨が相手。”気も荒けりゃ、手も早い”と、この様に思われがちだが、中には気の長い男もいた。その男の名は新之丞と言った。
新之丞は、鯨漁師で、漁明け(四月~十月)を待って、そりゃー誰もが羨む、別嬪の初《はつ》と言う女を娶った。
ところが、間も無くして新之丞の嫁が、思い余った顔をして、仲人の所へやって来た。仲人は「どうしたがぜよ?、はや、夫婦喧嘩でもしたかえ」と、問うた。初は「いいえ・・・・・」と、もじもじするばかり。仲人は「新之丞に、隠し女でも居ったかよ」、と聞いた。初は「いいえ・・・・・」と、答える。仲人は「いいえじゃ分からん。斯《か》く斯く然然《しかじか》と、ちゃんと訳を言うてみや」と問いかける。初は「あのう、嫁入りしてから三ヶ月も経ったに、まだ一遍も根際《ねき》へ寢らしてもらえません」と、答えた。仲人、「なんつぜよ!そりゃ、ほんまかよ?」お初は「はい。ウチはウチなりに、一生懸命務めゆうつもりですけんど、何が気に入らんか、さっぱり分かりません」それを聞いた仲人、唸る「う~ん!!!」お初は「一遍でも寝てみて、グツが悪けりゃ、そりゃそれで仕方がございません。それを触りもせんはあんまりでございす」と云った。仲人は「そりゃ、オマンの言う通りじゃ。使い捨てにするにしても、使い初めだけは、せにゃいかん」お初は「済みませんけんど、仲人さんの口から、云うてみてくれませんろか」と仲人に頼む。「言うどころじゃない。コジャント云うて聞かいちゃる」
仲人は、さっそく新之丞の家に行った。仲人は「新之丞どうなら、良い嫁じゃろが?」と聞く。新之丞「そりゃ嫁は、人も羨む別嬪で気立てよく、何もかも申し分はございません」仲人「こりゃ新之丞。使い初めもせんと、”申し分ない”とは言わさんぞ。オンシの返答次第では嫁を引き取るが、一体どういう料簡ぞ、チャント云うてみろ!」グッと仲人が詰め寄りますと、新之丞「あんまりこと、良い嫁じゃきん・・・・・」と。仲人「良い嫁じゃきん、どいたなら?」新之丞いわく、「儂ゃ、親父や御母が教えてくれたように、正月に使い初めをしようと思うて、大切に、大切に、とってありますらぁ」と云ったといいます。
そんなに大事にされてたまるか。 おおの、ばかばかしぃ〜〜〜
そんなに大事にされてたまるか。 おおの、ばかばかしぃ〜〜〜
文 津 室 儿
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