2013年4月10日水曜日

土佐落語 勘当 60-14


  土佐落語  勘当  60-14 
                            文  依光 裕

 南国市の井ノ沢に、亀吉という百姓がございましたが、こらが”欲の深いことにかけては、お城下から東にゃ居らん”という男でございます。
 「たかァ、メッタかねゃ。今度という今度は、さすがの俺もメリ込んだ・・・・・」
 「亀吉、何をそうメリ込んじょら?」
 「ウン。俺もいつの間にか息子の嫁を探す齢《とし》になってネヤ」
 「ほんで、探しゆか?」
 「探しゆけんど、居らんについてメッちょらや・・・・・」
 「居らんチ、亀吉。そんなもな自分で探さんと、仲人口にかけてみよ。餅は餅屋で、キレイにクルメてくれるぞ」
「そうよ。俺もそう思うて、数々頼んだが、スッポン断わられた」

         絵  大野 龍夫
 「どうせオンシのことじゃ。ガイな条件をコジつけたろが?」
 「ガイな条件をつけるもんか!”器量良し
にゃよばん、気質《きだて》はソコソコ、家柄はホドホド・・・・・”、そういや、たった一つだけ条件をつけた」
 「どんな条件なら?」
 「なにせ百姓の嫁じゃきネヤ。”飯はよけ食わんと、大糞をヒル娘を世話しとうぜ”、たったのこれだけじゃ」
 「亀吉、食うもな食わんと、ヒルもなヒレ”ち、そりゃ無理というもんぞ」
 「なにが無理なら!”転んでもタダでは起きるな、馬の糞でもツマンで起きよ。そこになかったら、ある所まで這うて行け。それでもなけりゃ、馬が来てヒルまで待ちよれ”。これが俺の信条じゃ」
 「オンシはそんな欲いことをいうけんど、世の中で一番大事なモンは、命じゃろが?」
 「ナンノ、命かたけがなんなら!死刑になる者が”銭をやるきに替つてくれ”いうたら、俺ァ喜んで替わっちゃる」
 欲の深い人間のことを”算盤《そろばん》と相談する”と申しますが、この亀吉は”命よりも銭”で、算盤どころではございません。
 「立田の叔母やん。済まんが、今晩儂ン家《く》へ集まっとうせ」
 「今晩チ、エライ急な話じゃが、息子の嫁が決まったがかよ?」
 「息子の嫁どころか、親族会議じゃ」
 「オットロシ!なんのモメごとぜよ?」
 「その詳しいこた今晩話すきに、どういたち来とうせよ」
 息子の嫁をヒガチで探しておりました亀吉が、急に親族一同を集めての、親族会議でございます。
 「亀吉、事の次第を話とうぜ」
 「立田の叔母やん、それに皆んなァ聞いとうせ。儂ァ今晩限り、息子を勘当する!」
 「なんつぜよ!息子が何をしでかいたぜよ?」
 「昨日のことじゃ。こともあろうに息子の阿呆が、他所《よそ》の畑へ立小便をしたッ」
 「なんぼいうたチ、そればァのことで息子を勘当する親がどこに居るぜよ」
 「けんど叔母やん。親の儂が大糞をヒル嫁を探しゆうに、息子が他所の畑へ肥をするこたないろがよ!」

                         写  津 室  儿

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