土佐落語 勘当 60-14
文 依光 裕
南国市の井ノ沢に、亀吉という百姓がございましたが、こらが”欲の深いことにかけては、お城下から東にゃ居らん”という男でございます。
「たかァ、メッタかねゃ。今度という今度は、さすがの俺もメリ込んだ・・・・・」
「亀吉、何をそうメリ込んじょら?」
「ウン。俺もいつの間にか息子の嫁を探す齢《とし》になってネヤ」
「ほんで、探しゆか?」
「探しゆけんど、居らんについてメッちょらや・・・・・」
「居らんチ、亀吉。そんなもな自分で探さんと、仲人口にかけてみよ。餅は餅屋で、キレイにクルメてくれるぞ」
「ガイな条件をつけるもんか!”器量良し
にゃよばん、気質《きだて》はソコソコ、家柄はホドホド・・・・・”、そういや、たった一つだけ条件をつけた」
「どんな条件なら?」
「なにせ百姓の嫁じゃきネヤ。”飯はよけ食わんと、大糞をヒル娘を世話しとうぜ”、たったのこれだけじゃ」
「亀吉、食うもな食わんと、ヒルもなヒレ”ち、そりゃ無理というもんぞ」
「なにが無理なら!”転んでもタダでは起きるな、馬の糞でもツマンで起きよ。そこになかったら、ある所まで這うて行け。それでもなけりゃ、馬が来てヒルまで待ちよれ”。これが俺の信条じゃ」
「オンシはそんな欲いことをいうけんど、世の中で一番大事なモンは、命じゃろが?」
「ナンノ、命かたけがなんなら!死刑になる者が”銭をやるきに替つてくれ”いうたら、俺ァ喜んで替わっちゃる」
欲の深い人間のことを”算盤《そろばん》と相談する”と申しますが、この亀吉は”命よりも銭”で、算盤どころではございません。
「立田の叔母やん。済まんが、今晩儂ン家《く》へ集まっとうせ」
「今晩チ、エライ急な話じゃが、息子の嫁が決まったがかよ?」
「息子の嫁どころか、親族会議じゃ」
「オットロシ!なんのモメごとぜよ?」
「その詳しいこた今晩話すきに、どういたち来とうせよ」
息子の嫁をヒガチで探しておりました亀吉が、急に親族一同を集めての、親族会議でございます。
「亀吉、事の次第を話とうぜ」
「立田の叔母やん、それに皆んなァ聞いとうせ。儂ァ今晩限り、息子を勘当する!」
「なんつぜよ!息子が何をしでかいたぜよ?」
「昨日のことじゃ。こともあろうに息子の阿呆が、他所《よそ》の畑へ立小便をしたッ」
「なんぼいうたチ、そればァのことで息子を勘当する親がどこに居るぜよ」
「けんど叔母やん。親の儂が大糞をヒル嫁を探しゆうに、息子が他所の畑へ肥をするこたないろがよ!」
写 津 室 儿
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