2012年2月1日水曜日

鬼のおしえ

          鬼のおしえ
 若いヒイラギの小枝にイワシの頭を添え、鬼門や玄関の戸袋にさして邪気を祓う。節分の定番である。
 しかし待てよ、我が町は漁師町。少し前まで、磯で日干しになったバラブク(ハリセンボン)や、鋭いとげが沢山あるホネガイをかざしてあった。近ごろとんと見当たらない。地域性が廃れた。鬼も頭をかしげる。
  今夜はどの家も年男や家長が豆をまく。「福は内、鬼は外」と、おうむ返しに歌う。和やかなひと時が流れよう。
 本来、家中は鬼ばかり。福は居なかった。先ずは福を呼び込む。鬼を追い払う。払えども払えども、鬼は出て行かない。どうりで我が家は鬼ケ城。
  豆に打たれ哀感きわまる鬼たちを「鬼は内」と、優しく迎える風習が山形市の旧家にある。また、東京都小平市では「鬼の宿」なる所があり、さまよう鬼たちを一手に引き受け慰める。奈良県吉野山の蔵王堂では「福は内、鬼も内」と言って全国の悪鬼や邪鬼を集め、仏法の功徳をもって改心させる、という。
 鬼を滅ぼさず情けをかける心根は、日本人の心情であろう。鬼にまつわる行事は各地にわたる。鬼がいう。「腹立てば  鏡を出して  顔を見よ  鬼の姿がただで見られる」といった。 俗諺に教えられた。そう、今夜から福の笑顔に倣おう。
                                                      (儿)
              高知新聞「閑人調」掲載

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