2012年2月18日土曜日

美人の郷

          美人の郷
  この室戸近在には、不思議なほど美人がおらん。色が黒うて振舞いにも優しげなところがない・・・これにはわけがある、と始まる当紙の企画「県下の古老の話」特集のコピーを恩師が届けて下さった。県内各地に伝わる話しを紹介する本紙の企画「古老の話」で、この回の紙面には父の姿であった。美人の郷を書こうとした矢先のこと、大きな縁を感じた。
  昔は室戸に美人が多かった。東に三津坂のおいちさん、南にビシャゴ巌のおさごさん、西に新村不動巌のおみやさん、それぞれ時代は少し異なるものの、いずれがアヤメかカキツバタ、と競う例え人《びと》がいないほど美人の郷であったという。
  この三人、美しいがゆえの苦しみを背負っていた。それは、もてすぎもてすぎて、もてすぎること。困り果て苦痛に耐え切れず、春霞のなか自ら鬼籍の船に乗ってしまった、と伝わる。遺書にいわく「この苦労は私一人でたくさん。今後、この土地に美しい娘は生まれてくださいますな」と。
  「あかりをつけましょ  ぼんぼりに  お花をあげましょ  桃の花」。桃の節句のころには、明るい園児の歌声がとどいてくる。雅びやかな雛祭りの陰に、こんな悲しい物語が隠れていた。
                                                        (儿)
               高知新聞「閑人調」掲載


   

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