2012年4月20日金曜日

            蓑《みの》
   藩政時代から昭和初期に至るまで続いていたという、漁師町室戸の俗習が一つあった。葛飾北斎や藤沢周平の風景には欠かす事のできない生活用具で、今はほとんど見かけない。雨具や日除けに用い重宝された蓑である。 
   六月の訪れと共に夜焚き(篝火)漁が解禁となる。漁師たちは、かがり火を海に照してケンサキイカやイサギ・サバ漁にいそしむ。漁模様が良ければ幾日も幾日も昼夜逆転の日々が続き、夫婦の秘め事も疎遠となる。誰の考えか小粋なはからい、蓑が登場する。
    この時代、漁師町の家には鍵など無く明け広げであった。この鍵がわりをつとめた物が蓑である。昼間、家の入り口に蓑を吊してあると秘め事中のしるしである。訪ねて来た者の目に蓑が写ると、そそくさとはばかったという。
    今も昔も若者の悪戯は堪えない。新婚家庭に入れ替わり立ち替わり蓑を吊して、好き者夫婦などと言って囃し立てる。囃し立てられた者も負けてはいない。羨ましければ妻を娶れと言い返す。蓑に纏る俗習は、子宝に恵まれんことを願った地域の知恵が生んだものだという。

                                                         (儿)
               高知新聞「閑人調」掲載

3 件のコメント:

  1. 蓑を吊すことで夫婦愛を示すという粋な「表現」は、かつての日本でのおおらかさを示していた文化でしょうね。良き時代だったのですね。
    私の住む某所でも、戦前まで夜這いの風習があったことがよく知られています。そこは平家の落人の地とされ、「~たもれ(して下さい)」が訛って「たも」と語り、「上品」な方言が残っています。この風習は縄文時代から平安時代頃にかけて全国的に続いていたと聞いているのですが、各地では近年まで続いていたのでしょうね。若い男が旅の途中、一夜、泊めてもらった家でそこの主人の計らいで、その家の娘と結ばれる話が多いのも、このような文化があればこそでしょうね。
    その「某所」では現在でも、他地方から独身男性が仕事でくると、地元の女性と結婚することが多いと言われています。

    蓑の話は、貴重な歴史的史料だと思います。この蓑を再び造り、結婚された方の玄関に飾る仕来りを始めたら楽しいですね。商品化すれば引く手数多でしょうね。

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  2. 匿名 様
     こころ暖まり、温もりを余韻に残して頂いたコメント、有り難うございました。
    「蓑の話は、貴重な歴史的史料だと思います。この蓑を再び造り、結婚された方の玄関に飾る仕来りを始めたら楽しいですね。商品化すれば引く手数多でしょうね。」この提案はビッグです。これらの品々をお店先に並べ商いをする、一幅の名画を彷彿させます。文化を商いする。挑戦したく思います。

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  3. 楽しい話ですね。
    「飾り蓑」を世に出す場合、実物大とせず、小型のものにして額に見立てた白木板にくくりつければいいかもしれませんね。蓑の中に男女の人形を加えて「相合い蓑」にしたようなものも、ほのぼのとした気持ちにさせるかも。紅白(あるいは金銀)の水引で蓑をくくって縁起物を表現したりしても楽しいのでは?
    いつまでも夫婦円満の象徴として玄関に飾られるためにはあまり大きなものは避けてはどうでしょうか?
    結婚式場などでも販売したら「無くてはならないもの」として普及するかもしれませんね。

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