はじめに、
「土佐落語タタキ寄席」とは、RKCラジオの帯番組に付けられたタイトルであり、昭和四十八(一九七三)年十月、高知放送開局二十周年を記念して刊行された単行本であります。著者は当時プロデューサーで、ペンネーム河野裕こと依光裕氏が著したものであります。
本書を当ブログに掲載したく、故兄を通じて親交を重ねさせて頂いている依光様に、お話しましたところ、快諾を頂きました。
これより六十編の物語を、月二三話を掲載致します。お楽しみ頂ければ幸いです。
第一話 使い初め 60-1 依光 裕 著
近頃は「消費は美徳」とか申しまして、何もかにも使い捨ての時代のようでございます。 「モシモシ、あたしゃ大埇《おおそね》の司亭升楽《つかさていしょうらく》でございますが、女房が盲腸でウンウン唸りよりますきに、ヘンシモ来てつかさい!」
「升楽さんの奥さんが盲腸?そりゃオカシイ、奥さんなら、ほんのこないだ盲腸の手術をしたばっかりで、盲腸はない筈じゃが」
「先生、そりゃ違います」
「違うこたない。この儂が手術をしたきに、間違いない」
「モシモシ、違うチヤ先生!」
「何が違うぞ?」
「女房が違います!」
女房も亭主も使い捨て。エライご時世になったもんでございますが、昔は茶碗から箸、下駄から草履にいたるまで、新規はすべて、正月から使うたもんでございました。
これを“使い初《ぞ》め“と申しますと、それだけにお正月が楽しみでもございました。
昔の室戸の漁師と申しますと、なにせ鯨が相手でございますので、“気も荒い、手も早い“、こう思いがちでございますが、中には気の長い男もございまして、新兵衛という漁師が、女房を貰いました。
ところが、その新兵衛の新妻が思い余った顔をして、仲人の所へやって参りました。
「どういたぜよ?はや夫婦喧嘩でもしたか」
「イイエ・・・・・」
「新兵衛に隠し女でもあったかよ?」
絵 大野 龍夫
「イイエ・・・・・」
「イイエじゃ判らん。斯く斯くシカジカと訳を話してみや」
「あのう、嫁入りして二十日もたったに、まだ一ペンもネキへ寝らいてくれません」
「なんつぜよ?そりゃ本当かよ?」
「アイ。ウチはウチなりに、一生懸命つとめゆうつもりですけんど、何が気に入らんか、サッパリ判りません」
「ウーム!」
「一ペンでも寝えてみて、グツが悪けりゃ、そりゃ仕方がございません。それをサワリもさんはアンマリことでございます」
「そりゃオマンの言う通りじゃ。使い捨てにするにしても、使い初めだけはせないかん」
「済みませんけど!仲人さんの口から言うてみてくれませんろうか」
「言うどころじゃない!コジャンと言うて聞かいちゃる!」
仲人はさっそく新兵衛の家に行きまして、
「どうなら、エイ嫁じゃろうが?」
「やぁ、何もかも申し分ございません」
「こりゃ、新兵衛。使い初めもせんと“申し分ない“とは言わさんぞ。オンシの返答次第では嫁を引き取るが、一体どういう料簡か、チャンと言うてみよ!」
グッと仲人が詰め寄りますに、新兵衛、
「あんまりことエイ嫁じゃきに・・・・・」
「エイ嫁じゃきに、どういたなら?」
「正月に使い初めをしようと思うて、おいてございます」
写 津 室 儿
写 津 室 儿
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