2012年12月16日日曜日

土佐落語  乳 房  60-3  

 土佐落語  乳房  60-3                依光 裕  著


 香美郡の手結《てい》に、親父と息子の男世帯の漁師がございました。
一日《ひいとい》も沖でクマビキ《しいら》を釣っておりますに、
 「おい、もうソロソロ貰えや」
 「お父やん。貰えち、何を貰うぜよ?」
 「嫁さん、女房よ」
 「お父やん、可哀想なことをいいなや!儂ぁ、まだ四、五年、独身で楽しまないかんきに」
 「そういうけんど、チッタ俺の身にもなってみよ。家に女手がないきに、飯炊きから洗濯まで俺がせないかん。ボツボツ親に楽をさいたらどうなら?」
 「楽をしたけりゃ、お父やんが後妻を貰うたらどうぜよ?」
 「ソレコソこらえてくれェ!今さら後妻の尻に敷かれてノセルか」
 「ソリャ見てみ!儂じゃちこの若さで女房をくくりつけられるは、真《ま》っ平《ぴら》じゃ」
 「まぁ、そういうな。俺がエイ娘に心当たりがあるきに、エイ加減で親孝行をしてくれ」
 息子はつづまり、親父の頼みを受け入れまして、安芸から女房を貰いましたが、これが別嬪の上によう気のつく、なかなかエイ嫁でございます。

         絵 大野 龍夫

 「おい、新婚の気分は、どうなら?」
 「お父やん、魚が釣れゆ最中《さなか》に妙なことを聞きなや」
 「阿呆、色咄《いろばなし》の一つもしもって釣るようじゃないと、一人前の漁師とはいえんぞ。どうなら?俺が見つけて来たばぁあって、エイろがや?」
 「エイエイ、いうこたない!それよりお父やん、隣の部屋で寝よったら、タマランろがよ?」
 「なんの!己《おら》ぁもうそんな気は起らんきに、遠慮せんとジャンジャンやってくれぇ」
 たかで友達同士みたいな親子でございますが、沖が時化《しけ》て漁を休んだ夏の一日。親子が縁先で網の繕いをしておりますに、息子の嫁が、麦茶を持って参りました。
 「お父さん。お茶でも飲んで一服してつかさい」
 「おおきにおおきに、ソコへ置いちょいとうせ」
 「イヤチヤ!お父さん頭に白髪がある・・・・・」
 「息子が嫁を貰う年じゃもの、これでも白髪は少ない方ぞ」
 「お父さん、一本抜かいて頂戴!」
 「ウン、ジンワリ抜いたら痛いきに、思い切って、ツン!と抜いたよ」
 息子の嫁が、親父の前へ回って、白髪を抜きにかかります。親父、頭を下げてヒョイと目の前を見ますに、嫁の浴衣の胸元がハダケておりまして、お乳がコンモリ。
 それがあんまり可愛いらしゅうございますので親父、思わずペロリとやってしまいました。
 ところが、その瞬間を息子が目撃しておりましたので、サァ大事!
 「お父やん!なんぼ親でも、そんなことをするもんじゃないぜよ!」
 コジャンとダン詰めますに、親父は顔を赫《あこ》うしまして、
 「オンシじゃちチンマイ時分、俺の女房の乳をタルばぁ吸うたじゃいか。そう怒るな」と言うた、そうでございます。

                            写  津 室  儿



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