土佐落語 野市の入れ違い 60-8 文 依光 裕
年にお米が二度取れる香長平野の二期作地帯は、稲の秋になりますと「鎌棒」という臨時雇いを雇うたもんでございます。
ところが、その食事が朝昼晩の他に二回、都合五回ときておりますので、農家の主婦はたまったもんではございません。
おまけに野市あたりでは、蚕も盛んでございましたので、野市の女は、〃立ったまま居眠りをする〃という、評判でございました。
その蚕飼いで、ダレコケて寝入っております野市の亭主持ちに、こともあろうに夜這いを仕掛けた奴がございます。
なにせ嫁さんは、昼間の重労働の上に、寝入りばなときておりますので、夢現《ゆめうつつ》でございます。ところが、その夜這いと入れ違いに、亭主が戻ってきましたが、嫁さんが目をコスリコスリ、こう申しましたのでなんともなりません。
「オマさん、今晩はエライ元気がエイねェ」
「なんつや?」
「先刻《さっき》みたいに、ガイにしなさんなよ」
「何を寝た呆けちょら!俺ァコレが最初《はな》ぞ」
「ありゃ?ほんなら先刻《さっき》のがは、夢じゃったろうか・・・・・?」
夢なもんか、〃野市の入れ違いで、バッサリいた〃という奴でございます。
嫁さんに罪の意識はなし、亭主も思いもよらんことで、その晩はソレでコト済みましたが・・・・・。
絵 大野 龍夫
あくる朝のことでございます。
嫁さんが桑畑で、桑の葉を摘んでおりますに、八兵衛という若衆が、たかで馴れ馴れしゅうに擦り寄って来て、こう申します。
「姐さんよ、昨夜《ゆうべ》はオオキニ!」
「オオキニち八兵衛さん、なんのことぞね?」
「エライご馳走じゃった!」
「そうかね。ウチの人と飲んだがかね?」
「姐さん、そう恥ずかしがらいでもエイわよ!昨夜のコトは、お互い口をつむっちょったら済むことじゃきに」
「八兵衛さん!ひっとしたら昨夜・・・・・?」
「姐さん、昨夜のコトを亭主に知られとうなかったら、今晩ここへ来とうせ。エイのう!」
男の風上にも置けん若衆でございますが、こうなったら女は負《ま》とうございます。
最初のうちはイヤイヤいいなりになっておりましたが、〃毒食わば皿まで〃、そのうちに嫁さんの方が積極的なってまいりましたので、この密通が亭主に知れん道理がございません。
「おい、オンシと八兵衛が密通しよるという、もっぱらの噂じゃが、本当か‼」
「まァ!言うにコト欠いて、なんということをいうぞね!」
一晩、大喧嘩になったところへ、姑が出てまいりました。
「オマンらァ、なにを争《いさ》かいゆうぜよ?」
「お母やん、コイツが隣りの八兵衛と密通しちょるッ‼」
これを聞きました姑、ふだん嫁との仲が悪うございましたので、この時とばかり、嫁を横目で睨んでこういうたそうでございます。
「フン!三《み》ッ(密通)や、四ッか‼」
写 津 室 儿
写 津 室 儿
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