土佐落語 十七回半 60-11 文 依光 裕
明治の時分、物部川の下上岡にお花さんという出戻り女がございました。
年の頃は二十七・八、色白の肉体美の上に、なかなかの器量良でございます。
「おい、お花さんが又戻って来たそうなネヤ」
「そうじゃとネェ・・・・・」
「そうじゃとネェち、たかァアッサリ片付けるが、もうチット他にいい様がないや?」
「そんな事いうたち、縁がなかったら仕方がないろがね」
「ほんなら聞くがネヤ。お花さんが今度の家へ嫁入りしたは一体いつの事なら?」
「たしか、こないだの節分じゃったろう?」
「そうじゃをが? 嫁入りをしてまだ三月も経つちょらんにハヤ暇を貰うち、オカシイとは思わんか」
「アンタはどうせ妙な事を考えゆうろ? イヤラシイ!」
「オンシはお花さんが自分の従姉妹《いとこ》じゃきに、ジキ肩を持つたいいかたをするがネヤ。その前の嫁入り先から戻されたは去年の暮れの事ぞ。その去年の暮れに戻った家には、いつ嫁に行ったと思うちょりゃ」
「アレもたしか、去年の節分じゃったぞね」
「ほりゃみてみよ!去年の節分に一回、今年の節分に一回、年ごとに二回も嫁入りをして、半年たたんうちに二回も戻される女が何処に居りゃァ」
「余ッ程縁がなかったというもんじゃネェ」
「縁があったかなかったか知らんが、あの女が今迄に、何ベン嫁入りしたか知っちゅうか」
「さァ・・・・・と、何ベンじゃったろう?」
「エイかや?二回や三回じゃない、十七回ぞ。十七回も嫁入りして”縁がなかった”でコト足るか! オンシも従姉妹の肩を持つ気があるなら、意見の一つもしてみたらどうなら‼」
絵 大野 龍夫
二十七・八の年で、結婚歴が十七回と申しますから、これはまた賑やか出入りでございますが、亭主に怒られました従姉妹は、さっそくお花さんに意見でございます。
「お花さん、オマンはどういてそうサイサイ戻されっるがぞね?」
「戻されるチ、人聞きの悪いことを言わんとって! アテは自分から戻って来ゆがじゃき」
「自分から戻って来るチ、どういてそんな事をするぞね?」
「女はネェ、親から貰うた宝物を生いて使わな損ぞね。アテは貧乏が嫌いじゃきに、嫁入り先が貧乏じゃったら、ワザト戻されるように仕向けて戻んて来る。勿論貰うモンはチャンと貰うきに、戻るたァび財産が殖《ふ》える理屈よね。今迄に十七回半戻んて来たきに、財産も大部できたぞね」
「お花さん、十七回半チ、その半はどういう意味ぞね?」
「いつじゃったか、エイ話があってネェ。仲人に連れられて嫁《い》たところが、前に一ペン嫁入りをした家じゃってネェ、門の前から引っ返して戻んて来た。ほんで十七回半よね」
写 津 室 儿
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