土佐落語 再婚 60-12 文 依光 裕
香美郡は韮生《にろう》の大西に、又兵衛・お八重という若夫婦がございました。
二人の子供にも恵まれまして、至って仲のエイ評判の夫婦でございます。従いまして”帰《い》ぬ!帰《い》ぬる”というような夫婦喧嘩は一ペンもしたことがございません。
ところが一日《ひいとい》の事、田ンボを鋤《す》きに出かけまして、お八重が馬の鼻先《はなやり》を務め、又兵衛が代掻きをしておりますに、お八重の鼻先が下手糞で、馬鋤きが直《すぐ》うに進みません。
「コリャ、馬の鼻をよう見て引っ張らんと、鋤けんじゃないか!」
思わず又兵衛が怒鳴りつけますに、女房のお八重、馬の鼻の孔をのぞき込みまして、「馬の鼻の中は、昔から赤いモンよのうし」
絵 大野 龍夫
これがそもそもの喧嘩の種、又兵衛は最初《はじめて》の夫婦喧嘩でイキナリ三下り半を叩きつけたと申しますから、夫婦喧嘩は再々しておく方がヨロシイようでございます。
「又兵衛、エイ加減で嫁さんを許いちゃれ」
「インネ、一ペン暇を出いた以上、二度と再び儂ン家《く》の敷居を跨がすわけにゃいかん!」
〽スリバチ抱えてコネにゃならん
レンギレンギ こりゃレンギ・・・〽
二人の幼児《おさなご》を抱えまして、早くも後悔しております又兵衛でございますが、お八重を許すとはどういたち言いません。
そこで一計を案じましたのが、亀の甲より年の功、次馬というジンマでございます。
「又兵衛、もうソロソロどうなら?」
「またお八重の話かよ? 儂がイカン言うたらイカンきに、済まんけんど帰《い》んどうせ」 「そうか。俺ァ”新しい嫁を貰う気はあるまいか”こう思うて来てみたが、ほんなら帰《い》のうか・・・・・」
「ア、新しい嫁つかよ‼」
「おお。オンシも子供を二人連れてのマモメ暮らしはたまるまい。それにまだ若いきに、”アッチの方も不自由じゃろう”と思うて来てみたが、エライ邪魔をしたのう」
「次馬さん、貰う貰う!貰うきに、済まんが世話しとうせ!」
「そうか。ほんで、どんな嫁が良けりゃ?」
「さァ、どうせ貰うならお八重みたいに気が優しゅうて、子供を大事にしてくれる女がエイ・・・・・」
「ほんなら、早速心当たりを当たってみるが、今度の嫁は大事にしちゃれよ」
次馬はイソシイことに、三日のうちに話を纏めましていよいよ婚礼。ところが又兵衛、次馬に手を曳かれた花嫁を見てノケぞってしまいました。
「次馬さん!そりゃ、お八重じゃないか!」
「どうなら瓜二ッじゃろが?それに名前までお八重言うてオンナシぞ」
「イカンイカン!次馬さん、こんな事をして、この始末をどうしてくれるぜよ‼」
又兵衛がカンカンになって怒りますに次馬
「先《せん》の女房と一緒かどうかは、今晩寝てみんと、判るまいが?」
写 津 室 儿
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